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奥が狭い土地を活かすには?
今回のプロジェクトは世田谷区にある1棟現場になります。5部屋+ユーティリティースペース、30畳越えのLDK、ルーフバルコニー等々これでもかと盛り込みました。指定容積率いっぱいに建物を計画し、1つ1つの要素が大きく全体的なボリュームを感じられる物件となっています。コンセプトは“山の中の別荘”。木材の色味と石目系のタイルを用いて自然を感じられるような素材選定を心がけました。
プランニング
以前担当したプロジェクトのすぐ側の敷地で、というよりも番地まで一緒だったので非常に親近感を覚えた場所でした。今回は北側に道路が接道し南側に向かって敷地が狭くなっていく扇形のような敷地形状をしていたので、2階LDKの構成などが肝になるだろうなと感じましたね。
プランの方向性をある程度検討した結果、「玄関・車庫・階段」この3要素の位置と形状、「2階LDK」のバリエーションを組み合わせた2案に絞り進めることにしました。1案(①)はLDKを敷地奥から道路側まで通り抜けられるように繋いだプラン。もう1案(②)は水廻りを2階南側に集約し、敷地の間口が広い道路側に向けてLDKを配置するプランです。
①のプランは東側の階段計画が建物全体に閉塞感を与えてしまい、南北をLDKで繋げたもののただ広いだけという空間構成で終わってしまうなと感じました。一方で斜め側を玄関アプローチにする②の方が車庫が広く斜め部分を玄関の面積とダイニング空間に充てることができ、実質的な面積の広さや明るさの取り込み方について軍配が上がったかなという印象でした。3階に4部屋を持ってきたので、2階に水廻りがあり実用性を兼ねている点もプランとしての完成度がより高いものになったと思います。
外構
北側の間口が大きく広大な空間を得ることができたので、車庫幅の大きいビルトイン車庫を計画する方向で進めました。(シャッター内内の有効幅で4.28m)建物と道路が近いので、圧迫感を軽減させること、1階廊下空間の明るさを取り込みたいことからパイプシャッターを採用しています。車庫脇に配置した植栽が外からも見えますし、パイプシャッターで光が入るようなガレージにすることができ良かったです。植栽の傍にはコンクリートの平板を設け、ベンチ代わりに座ることができるよう企画しました。
また、広いからこそメンテナンスがしやすい車庫を作りたく、土間部分はヒビやタイヤ痕が付きにくいような仕上げにしようと考えていました。工事の作業工程においても高強度で汚損しにくい方が完成後のクオリティが高くなるので、施工計画的な面でもそうしたいなと感じていました。その辺りも含め、今回は車重にも耐えられる天然石や洗い出し、セラミックタイルを選んでいます。施工面を同時に検討することも外構計画をより良くするための一因だなとこのプロジェクトで考えさせられましたね。
アプローチは玄関の木調色と同色の親子門扉で建物本体と外構の統一感を図りました。本体がシンプルな色合いなので、外構部分についてはしっかりと色を入れています。玄関ポーチには厚さ10cm、縦横45cmの化粧コンクリート平板を用いて部材の塊感をステップで表現。1枚45kgあるので業者さんからは「もう使わないでー」と嘆願されましたが、仕上がりがとても良かったのでまたどこかで使いたいですね。色味や素材の切り替え方については、斜めの壁が絡んでくる部分を足元の意匠にどう落とし込むかを現場に行く度にああしよう、こうしようと試行錯誤したので理想通りにできあがり満足しています。
イメージ
1階
2部屋(9畳超えWIC付きMBR + 独立Utilityスペース)と造作洗面を配置した1階。玄関周りの色の使い方は特にこだわりました。玄関天井は羽目板貼りにし、床には鏡面とマット仕上げを混合させた半磨きタイルを使っています。石目の模様に合わせて表情を変えるので、完全鏡面タイルよりも天井のライトの照り返し等が淡く綺麗に映えてお気に入りです。贅沢に玄関から廊下一面、トイレにもこちらのタイルを貼りました。
造作の独立洗面には大理石のモザイクタイルを。細かい話ですが、個人的にブラックウォールナットと深緑が合うと思い1階にだけ微妙に緑色が入ったタイルを使用しました。(他の場所は黒)玄関に入った時に感じる重厚感を演出できたと思います。
2階
32畳のLDK、斜め部分を活かしたバルコニー、広い水廻り、パントリー…。この物件の見所の1つである“大きさ”をよく表しているのが2階ではないでしょうか。プランニングでも触れましたが、LDKの配置は陽の当たる南側にするのか北側にするのかとても迷いました。後者を選んだことで結果的にまとまりのあるLDKになったのでよかったです。
また、斜め部分の壁にダイニング空間を配置したので、ダイニングテーブルの置き方もお客様によって様々だと思います。照明は固定のソケットではなくライティングレールをつけることでどの位置でも設置できるように配慮しました。思った以上に斜め壁側から光が差し込むのは嬉しい誤算でした。
買い出し後の動線を考え、入り口から近い位置に冷蔵庫とパントリーを
陽がよく入る水廻りは洗濯物を干すのにも最適
3階
2階から3階に上がると、正面にはペンダント照明と広いホールに面したワイド天板の洗面台が。居室4部屋・共用収納・手洗い器付トイレを1番眺めのいいこの階層にまとめました。斜め壁をあえて立ち上げず、各居室を整形に計画したのもこだわりポイントです。
ルーフバルコニー
見渡す限り周囲の住宅では1番高い位置にあるのではないかというルーフバルコニーは富士山やスカイツリー等々、東京を一望出来る空間となっています。夏には多摩川や隅田川の花火が見えるかもしれません。
今回は扇形のような土地にどうやってプランを当てはめていくかが難しい現場でした。建物自体の規模も大きく、毎週現地に赴いて細かい納まり等の打ち合わせを重ねました。建物ができあがっていく過程を現場監督や職方の皆様と共有することができたのはとても良い経験でした。ルーフバルコニーから望む富士山は格別で、満足のいく仕上がりとなりました。
子育て奮闘中。趣味は音楽で、自宅には防音室を完備。